都財政の課題と成長戦略について
先日(2/24)から東京都議会第一回定例会において、代表質問、一般質問が始まりました。今定例会では来年度予算案についての審査が行われます。
そこで東京都2026(令和8)年度予算案を通し、都財政の構造的な課題と首都東京の持続的発展に向けた成長戦略についてお伝えします。
- 東京都2026(令和8)年度一般会計予算について
一般会計予算とは、国や地方自治体が一般的行政運営を行うための基本収入と支出をまとめたもので、一般家庭における家計のようなものです。
東京都における2026(令和8)年度の一般会計予算案は、過去最高の約9兆6530億円と前年度比4950億円増加(+5.4%)となりました。
特別会計・公営企業会計を含む総予算は18兆6850億円に達し、前年度比で約8353送円の増額となっています。伸び率は5.4%増で、一般会計の伸び率と一致しており、増収分を的確に政策的経費に配分する積極予算となっています。
特に歳出において、政策的経費である一般歳出予算額は7兆2678億円と、前年度比3701億円増加しており、その財源確保として事業評価を積極的に行い、1350億円を新規施策の財源とし、更に大型投資が同時期に集中していることから、将来負担の分散を図るため、基金と都債を活用し、都市の強靭化や福祉先進都市の実現、社会資本整備などの重要課題に対し、蓄積した財源を戦略的に投入する成長投資型財政フェーズに移行した象徴的予算になっています。
2. 過去最大予算を支える歳入構造について
最大の要因は、法人税収の大幅増加です。
来年度予算における歳入は約7兆3856億円と、前年度比で4950億円(+6.6%)の増加となっており、その内の約4割にあたる2兆7126億円を法人二税(法人事業税、法人住民税)が占めており、全国の地方自治体でも突出した構造です。
◎法人二税の大幅増の要因
▶本社機能の東京への集中や、企業のグループ化
▶金融・IT産業の集積による企業利益の東京への集積
▶円安による輸出企業の為替差益
▶資源・商社の価格効果
▶インバウンドの回復
→ しかし同時に、景気後退時には税収が大きく落ち込むリスクを抱えており、平成14年度予算では、前年度比で約3600億円、4年間で約1兆円超の大幅な減収となる深刻な状況が起こりました。
◎東京一極集中による税源偏在是正の議論と実際の税制改正
2008(平成20)年に第一次偏在是正が行われ、法人事業税の一部を国税化(地方法人特別税創出)、2014(平成24)の第二次偏在是正による地方法人住民税の一部国税化と、地方法人特別税の地方法人税への移行が行われ、2019年度の再配分強化以降、年間2700億円規模の減収、合計で2兆円超規模の影響を受けています。これまでは、「暫定措置」として導入されましたが、現在では恒常的制度になりつつあり、受益と負担の不一致という地方税の原則違反になっています。
本質的な争点は、成長都市の税収の考え方、今後の地用交付税制度の在り方であり、税制技術に終始した議論を変えるべきです。併せて、2008年の第一次偏在是正では、国が首都東京の成長都市としての課題への協力が行われ、
①羽田空港の国際化
②オリンピック招致の推進
③国家戦略特区への東京指定
がなされ、今後の成長につながる「パッケージ合意」がなされました。
今後も国への要望の実現に向けたカードをしっかりと準備しておくことが重要です。(例:スタートアップ税制改正、(売却時課税への一本化、課税繰延制度導入など)、臨海部への国際機関誘致、臨海部の金融特区認定など)
◎現在新たな第4次税源偏在是正の議論が検討されています。
今回検討されている「新しい是正策」の中身は、3つの柱になっています。
①地方法人課税の再配分強化
②法人事業税の制度見直し
本社が東京にある企業が増加 → そこへの対策
③固定資産税への新たな徴税制度
◎今回の新論点「地価上昇による東京23区の税収急増」
今回は、都市税制そのものに踏み込む可能性があり、単なる税制議論ではなく、国側が主張する均衡型国家と都が主張する成長拠点集中(成長牽引型)のどちらが日本モデルになるのかの、国家戦略論争だと感じます。
高市総理、片山財務大臣は、東京都側の東京の役割についての理解は頂いていると思っています。どちらの側に立つかではなく、どのような日本モデルを構築していくかという日本の将来を見据えた議論になるようにしていただきたいと、働きかけてまいります。
3. 歳出が膨らむ要因
①物価上昇による「名目値」の押し上げ
▶建設費(資材・人件費)上昇
▶福祉・医療サービス単価上昇
▶委託費・公共事業費の増額
→ 福祉・医療サービス単価は物価上昇分、人件費上昇分をサービス単価に転嫁しにくいため、病院・事業者経営支援が必要。
→ 経営規模の小さい中小企業にとってインフレ(物価上昇)は「コスト増」と「資金繰り悪化」が同時に起こるため、価格・資金・経営体質の三方向の対策が必要であり、現場の声を受け止める支援が必要。
②社会保障費の急増
▶高齢化の進行による歳出増加分
▶介護人材確保支援(2025年以降 約3万4600人不足)
▶医療・看護体制強化
▶福祉サービス費の増加(看護師、介護職員、保育士などの処遇改善)
③都市インフラの更新
◎首都直下地震リスクへの備えとして
▶上下水道・橋梁・港湾などインフラの更新
▶防災都市整備
▶老朽施設更新
→ 高度成長期に作った都市設備・施設が更新期に入り、構造的に支出が増える。
4. 「稼ぐ東京」への転換
こうした背景から、東京都が掲げるのが「稼ぐ東京」への取り組みです。これからの東京の成長戦略として、都市そのものが価値を生み、投資と人材を呼び込むことで、持続可能な税収を確保するものです。
その重点投資分野として
▶臨海部開発(都市ブランド)
▶観光都市整備
▶スタートアップ支援
▶国際金融都市形成
が進められています。
5. 都市ブランドと臨海部戦略
臨海部は東京の新たな成長フロントとして、有明・青海・お台場エリアに国際イベント・観光・水辺空間活用・イノベーション拠点整備が進められ、ゆりかもめへの投資を含め、関連投資では複数年度で数千億円規模に及んでいます。
東京都の臨海部開発は、日本最大級の都市開発として期待される一方、「過去の人工島開発の失敗」の例である神戸の人工島開発と比べられるなど、失敗は許されません。
●臨海部開発の主な課題
◎需要予測の不確実性
▶オフィス需要はリモートワーク普及で構造変化
▶国際展示場、観光施設は景気や国際情勢に左右されやすい
▶平日人口が伸び悩むリスク
→ 「作ったが使われない空間」になる懸念がある。
◎維持費が極めて高い
▶臨海部は通常の年よりコスタが高い
▶地盤改良、液状化対策
▶高潮、津波対策
▶橋梁、地下インフラ維持
▶塩害による設備劣化
→ 建設費より維持費が財政を圧迫する可能性が指摘される。
◎都市としての生活密度不足
▶臨海部は典型的に夜間人口が少ない
▶臨海部は典型的に商店街、生活文化が育ちにくい
▶臨海部は典型的に交通が鉄道依存
→ 結果として、イベントが少ないと人が来ない街になりやすい。
◎都心との競合
丸の内、日本橋、渋谷、虎ノ門などの既存都心が強すぎるため
▶企業本社移転が進まない
▶高付加価値テナントが集まりにくい
という構造問題がある。
◎なぜ神戸アイランドの失敗と比較されるのか
代表例が、ポートアイランドと六甲アイランド
神戸開発の当初構想
▶国際貿易都市の拡張
▶未来型住宅都市
▶港湾産業拠点
→ しかし結果は、下記の問題が生じた。
▶バブル崩壊で企業進出停止
▶港湾産業の衰退(コンテナ港の国際競争敗北)
▶都心(三宮)との分断
▶人口が定着せず空洞化
→ 特に1995年の阪神淡路大震災後、企業撤退が進み「巨大な空き地問題」が発生。
◎今後の臨海部開発成功のための条件
▶産業収益を生む拠点化(スタートアップ・金融・研究)
▶都市機能の補完であり代替ではない設計
現在東京都は、「観光地」と「働く都市」の両立への分岐点にあると思います。そのような状況の中では、観光装置型投資である巨大噴水は、維持管理費が不透明であり、効果が予想しにくい状況において、再度慎重に検討するべきと感じています。「観光地」「ビジネス街」としての快適で健康的な賑わいのある街づくりの視点が不可欠です。
6. 観光政策
訪日外国人の回復により、東京の観光消費額は大きく回復しております。東京都関連推計では、東京の年間観光消費は約5兆円規模と示されており、新たな税収減としての観光政策が進められています。ただ今後の観光政策では、都市ブランドを高める戦略が求められており、量から質へ、人数から消費額への転換が求められています。
◎都市ブランドの重要要素
▶景観
▶文化発信
▶夜間演出
▶デジタル都市体験
→ 東京は「安全」という強みがありますが、「感動体験型都市」という点では欧州主要都市に遅れています。
7. スタートアップ支援政策
現在東京には日本全体の66%、約1万社のスタートアップが集積しています。年間IPO(新規上場)は約20~30社前後。
東京都はファンド支援、拠点整備などに数百億円規模の支援を投入しています。
しかし、現在その課題も明確になっています。
◎ストックオプション課税
ストックオプション(SO)とは、将来決められた価格で自社株を取得できる権利です。
目的は、
▶資金が少ない創業期でも優秀な人材を確保できる
▶成長成功時に大きな報酬
▶経営者と従業員の利益一致
→ 米国では給与より重要な報酬制度
しかし日本では、
▶株を取得した時点(権利行使時)で、利益が「給与所得」として課税される。現金収入がないのに課税されてしまう。
▶株は実際にはまだ売却していない
▶納税資金がない
▶税率が高く最大55%(所得税+住民税)
▶起業参加リスクが大きい(億単位の納税リスク事例が存在)
→ 結果として、優秀な人材が大企業へ流れたり、海外起業へ流出したりする。
※米国の事例
▶売却時課税(キャピタルゲイン)
▶税率約20%前後
▶長期保有優遇
※シンガポールの事例
▶原則非課税
◎税制改正議論のポイント
▶売却時課税への一本化
▶課税繰延制度
▶非上場株の評価見直し
▶保有期間優遇
→ 起業参加リスクの低減
▶人材流入促進
▶投資拡大
◎ストックオプション税制が改善された場合
※期待効果
▶国際金融都市としての競争力向上
▶海外起業家誘致
▶高所得層の国内定着
▶税収の中長期的増加
→ 特に東京では
▶AI
▶フィンテック
▶バイオなど高付加価値産業の集積が進む可能性が高い
◎今後の最大課題
※制度面
▶税制の国際標準化
▶未上場株評価の合理化
※社会面
▶失敗に寛容な文化
▶再挑戦可能な制度
※行政面
▶補助金依存から成長投資型支援へ転換
※スタートアップ支援の本質は、「補助金」ではなく、「成功報酬制度の設計」だと思っています。高市総理も推進を表明しており、早期実現に向けて取り組んでいくよう働きかけてまいります。
◎海外VC資金の不足
▶米国:資金の多くはグローバル投資
▶シンガポール:約半数が海外資金
▶日本、海外ベンチャーキャピタル資金は1~2割の低水準
※なぜ海外VCが日本に来ないのか
海外投資家が最も重視する点
▶IPO時価総額が小さい
▶早期上場(未成熟IPO)
▶M&A市場が未発達
→ 米国は大型M&Aが主流だが、日本はIPO偏重
▶リターン期待が低い
▶ユニコーン企業が少ない
▶成長速度が遅い
▶国内市場志向が強い
→ その他、英語、法制度、商慣習の壁もある
→ 人材の流動性も不足
▶ストックオプション課税問題もある
→ 本質的な課題は、「排戦に資金が集中する仕組み」が未完成
◎M&A市場の整備
結果として、企業が海外へ本社を移転する例もあり、東京で生まれ、東京に税収が残る仕組みづくりが必要です。
8. 国際金融都市構想 → 高所得雇用の創出
金融分野への投資・誘致施策も拡大しています。
資産運用会社誘致や環境整備など関連施策は、年間で数百億円規模に拡充されています。
海外企業人材の増加率は近年10%前後の伸びを示しています。
しかし現実には、
▶英語行政対応の遅れ
▶税制競争力
▶規制手続きがシンガポール、香港に遅れている
金融都市競争は国家間競争であり、東京単独では限界があり、同じ方向を目指す内閣との連携は、東京都にとっても大きな追い風であり、早期の政策協議を進めていただきたいと思います。
9. 今後の都政の方向性
東京都が掲げる「稼ぐ東京」は、これまで税収の柱であった法人二税への依存から脱却し、都市そのものが継続的に富を生み出す構造への転換をする戦略です。
①法人二税依存からの脱却 →「税収構造の転換」
※背景課題
▶世界経済の変動で税収が急減するリスク
▶本社集積依存型の財政構造
▶デジタル・グローバル経済への移行
※目指す方向
▶投資・金融・観光・知的財産からの収益拡大
▶都市活動そのものが収入源となる
▶「企業課税→都市価値課税・都市収益」への転換
②経済を牽引するスタートアップ都市へ
※主な施策
▶世界水準の起業拠点整備(TBIの充実)
▶海外VC資金の呼び込み
▶ストックオプション税制の見直しへの国への働きかけ
▶大企業とのオープンイノベーション促進
※狙い
▶新産業創出による高付加価値経済
▶雇用創出と所得向上
▶「本社がある都市」から「企業が生まれる都市」へ
→シリコンバレー型の「成功企業が次の起業資金を生む循環」を東京に形成することが核心
③国際金融都市の推進
◎金融機能強化は税収分散の中核政策
※推進内容
▶海外資産運用会社の誘致
▶英語行政・規制サポート強化
▶グリーンファイナンス・スタートアップ投資市場の形成
※期待効果
▶金融関連雇用の増加
▶高所得人材の集積
▶投資マネー流入による都市経済流動化
→「アジアの資金が東京を経由する構造」を目指す
④都市ブランド戦略(都市そのものを商品化)
◎税ではなく「都市価値」で稼ぐ東京を目指す
※具体分野
▶観光都市高度化(ナイトタイムエコノミー、MICE)
▶ウォーターフロント・臨海部開
▶文化・アート・デジタル演出による都市体験価値向上
▶国際イベント誘致
※意味
都市ブランドが高まるほど
▶投資が集まる
▶人材が集まる
▶消費が増える=持続的な税収基盤になる
⑤これからの東京都政の本質的転換
▶大企業依存型 → イノベーション創出
▶税収中心 → 都市収益中心
▶国内経済 → グローバル資本
▶行政主導型 → 民間投資誘発
⑥今後の最大の課題
▶スタートアップ資金の海外依存
▶規制税制が国制度に左右される点
▶都市開発投資の採算性
▶人材(金融・IT)の国際競争
スタートアップが次々と生まれ、世界の資金と人材が集まり、金融・観光・文化が新たな成長を生み出す → その好循環を東京に根付かせることが重要であります。そのためには、制度の壁・資金不足・人材競争といった課題から目を背けず、挑戦を続ける東京にしていかねばなりません。
私はこれまで、TIBの立ち上げ、充実に関わり、スタートアップ支援、特に大学・企業との連携支援に力を入れてきました。
「稼ぐ力」を都市の力へ。
日本全体の成長を牽引する世界都市東京の実現に向け、経験を生かし行動し、不断の改革を働きかけてまいります。