2021年12月16日に発覚した国交省データ改竄事件について

昨年の12月16日、国土交通省で発覚した「建築工事受注動態統計調査」の2013年度から2021年4月にかけて約8年間にもわたって行われていたデータ改竄の事実が報告されました。

この調査結果は、国内総生産(GDP)の基礎データの1つにもなっております。GDPは内閣府が我が国の経済の全体像を国際比較可能な形で体系的に記録することを目的に、国連の定める国際基準(SNA)に準拠しつつ、統計法に基づく基幹統計として、国民経済計算の作成基準に基づき作成しなくてはならず、国際的にも高い注目を集める要統計になっています。

また四半期ごとに発表される国内一定期間につくられたモノとサービスの付加価値の合計額の推計として、国の経済政策の重要な基礎資料になっております。

国の統計制度をめぐっては、3年前にも同じく基幹統計に位置づけられる厚生労働省の「毎月勤労統計調査」が、15年以上もの長きにわたり不正が続けられ、事件の影響の大きさから、各方面に大混乱を招き、事件を受け政府統計から各省庁に対し統計の点検の指示が出されました。

しかし今回国交省では、一斉点検が支持された後も、不正処理が続けられ、また、2019年1月には、会計検査院から問題があると指摘を受けても、都道府県の協力を受けて調査対象を抽出するという手法を修正しただけで、省内では直近まで不正な改竄が続きました。

更に、2019年以降の調査票はすでに廃棄されており、データの修正は困難な状況になっており、正に隠蔽が行われたと言わざるを得ません。

これまでも、森友問題の財務省における決裁文書の改竄など、検討に必要な資料が廃棄されてしまい、これ以上の調査が進まなくなるような対応が続いておりますが、一日も早く国家公務員の意識改革に繋がる具体的な法整備、対応が重要であり、今回の改竄も国交省の指示で、都道府県の統計担当者も巻き込んでおり、大変根が深い重大な事件と言えます。

また、行政を監督する側であるはずの斉藤鉄夫国交大臣は、国会で、「従来の手法との連続性を図っており、統計上意味があった」と釈明するなど、改竄されたデータの比較にどんな意味があるのか、都道府県の担当者にはさせられない作業を、なぜ国交省で1年以上も続けたのか、全く釈明にもならない大臣の姿勢に、言葉を失うばかりであります。

3年前の厚労省の改竄においては、元統計担当の方から、統計の重要性が理解できておらず、仕事の効率のみを優先していたとの認識の甘さを反省する言葉が語られており、漫然と前例に倣い仕事をこなせば良いという組織の姿が浮き彫りになりました。

また、厚労省の時も、6人目の課長が不正に気付きましたが、課長が行ったのは隠蔽とも取れる、ルールを不正の実態に合わせようとする行動でした。しかし、その時は総務省とのやり取りで不正が発覚するのを恐れ、断念し、その後は調査の制度改正のタイミングを待って、上司にも公表することなく、データの歪みを補正する指示を出したと報告されております。そこには、組織の利益、自らの保身のみが優先され、10年以上にもわたって、本来より少なく賃金を支給されてきた2000万人にも上る方々や、雇用保険、労災保険の保険料を納めている企業、追加支給にかかる経費を保険料で賄わされる全ての加入者の方々への大きな影響について、更に、実質賃金の議論にも関係する重要な問題であることが、なぜ考えに及ばなかったのか、あまりにも情けない、悔しい思いになる事件でした。

統計は全ての政策を作成する上で、私たちの暮らしや社会の状況を測る大事なデータです。それがないがしろにされている現状において、改めて申すまでもなく、データの信憑性を確認する検査体制を充実させ、公務員の日常業務において複数でチェックできる組織、直ちに改善できる体制を構築していくことが必要です。

かつては、「行政の無謬性」という言葉が国家公務員の信念として使われました。そして、「行政は間違いを起こさない」との考えのもと、一度決めたことは、たとえ間違っていると気付いたとしても、なかなか変えることが出来ない傾向につながりました。

官僚組織の改革、特に国家公務員の意識改革を進めるためには、上司や組織の空気、「行政の無謬性」という根拠のない息苦しい信念を過度に意識しすぎることのない組織に変えていくことが必要であります。社会の変化の速い現在において、そうした時代錯誤的な組織風土を、今こそ抜本的に変えていくことが求められております。

東京都の政策においても様々な統計が利用されておりますが、今回の事件を他山の石として、足元の東京都を見直す契機にしていきたいと思います。

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